外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)
この病気は新聞や雑誌に掲載されTVでも放映されたことから、一般の人々に 広く知られるようになった病気といえます。 この病気の発症にはおそらく脳脊髄液の循環異常が関与しており、 ブラッドパッチ(硬膜外自己血注入療法)という簡単な処置で症状を 劇的に改善することがあります。 マスメディアのおかげで広く一般に知られるようになったのですが、 残念なことに脳神経外科専門医の間ではこの病気はまだあまり広く知られていません。 むしろこの疾患に否定的な医師も多くおられます。 外傷性低髄液圧症候群は交通事故後の鞭打ち症との関連も強いのですが、 鞭打ち症を扱っておられる整形外科専門医の間でも十分に認識されているとは 言い難いのが現状です。この欄ではこの疾患を取り上げます。
低髄液圧症候群そのものは、腰椎穿刺後に起こる起立性頭痛の原因として 古くから知られていました。 この場合は安静、あるいは硬膜外自己血注入療法 (ブラッド・パッチ、epidural blood patch (EBP))で比較的短期間で治癒します。 原因がはっきりしているので診断は早期に下され、脳脊髄圧も実際に低い値を示します。 しかし、腰椎穿刺後の症状とよく似た症状を示すにもかかわらず 何の原因も見いだせない方もおられます。 これらの患者に腰椎穿刺と脳槽シンチグラフィーを行うと、脳脊髄液圧が低く 髄液が頚椎や上部胸椎レベルで漏出している所見が見られ、 特発性低髄液圧症候群と名付けられています。 最近話題になっていることはこれらとは異なり、交通事故の後いわゆる「鞭打ち症」とか 「頚椎捻挫」と診断された患者の中に、以前から知られていた低髄液圧症候群とよく似た 症状を示す人たちが相当に多くいるということです。このことに初めて気づかれたのは 平塚共済病院脳神経外科部長(現国際医療福祉大学熱海病院脳神経外科)の篠永正道先生で、 わずか数年前のことです。症状は起立性頭痛だけでなく、まぶしい、集中力が落ちた、 肩が凝る、全身が痛いなど極めて多彩です。
鞭打ち症に伴う外傷性低髄液圧症候群では、腰椎や下位胸椎のレベルで髄液が 漏れていることが非常に多く、これまでの経験では頚椎や上部胸椎レベルで 髄液漏出を認めた症例はありません。また、頭蓋内圧もほとんどの場合正常です。 従って脳脊髄液減少症という病名が用いられるようになってきましたが、実は 脳脊髄液が減少しているという証拠はありません。 なぜこのような現象が見られるのか今のところはっきりとした原因は分かっていません。 治療は現時点ではブラッド・パッチを行います。個人的な治療経験ですが、 9割以上の患者で症状の改善が認められ約3割は社会復帰されています。 しかし完治(事故以前の状態に完全に戻ること)は難しいのが現状だと思います。
この疾患は症状が多彩なだけでなく、原因も交通事故、テニス、
カイロプラクティクスなど多彩です。
しかし、CT, MRI など通常の検査ではほとんどの場合正常と判断されています。
したがって診断は大変に難しいのが現状です。
鞭打ち症などの後、いつまでも多くの症状を訴える患者さんがおられたら
この疾患を疑ってみるべきだと考えます。
おおたかの森病院 脳神経外科 高木 清