前立腺癌の現状と治療について

講師:おおたかの森病院 泌尿器科 伊勢呂 哲也医師(日本泌尿器科学会泌尿器科専門医)

前立腺癌の特徴

前立腺癌は高齢者に多くみられる癌で、50歳以降、加齢とともに増加します。ほかの癌と比べると進行は遅く、 初期には特徴的な自覚症状はほとんどありませんが、進行すると、排尿障害や腰痛、骨の痛みがみられることがあります。 男性ホルモンに依存して大きくなる癌のため、ホルモンを抑える治療法が有効です。 罹患者数は年々増加しており、2005年には男性癌で第3位となり、2020年には第2位になると推測されています。罹患者数の増加に伴い、 死亡者数も増加しており、2010年には遂に1万人を突破し、今後も増えていくことが予測されています。 罹患した有名人には、タレントの間寛平さんや、俳優の北村総一郎さん、高倉健さん、ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹さんがいます。

前立腺癌とは?

前立腺は、尿道を取り囲むようにあるクルミ大の臓器です。前立腺の主な働きは、前立腺液を分泌して、精液の一部を作ること、 そして、排尿時に収縮、弛緩し、排尿のコントロールをすることです。 前立腺肥大症は、内腺(移行域)に発生する良性腫瘍です。尿道が圧迫され狭くなることで、比較的早期から尿が出にくい、 トイレの回数が多くなる、尿をした後すっきりしない、などの自覚症状が現れます。前立腺肥大が周囲に広がったり、 骨や他の臓器に転移することはありません。また、前立腺肥大症から前立腺癌に進むことはないと考えられています。 一方、前立腺がんは、主に外腺(辺縁域)に発生する悪性腫瘍です。



前立腺癌の症状

初期では、ほとんど自覚症状がなく、進行すると尿が出にくい、残尿感、夜間頻尿、排尿時に痛みを伴う血尿など、前立腺肥大に似た症状があります。 さらに進行すると、腰や背中が痛いなどの症状がみられます。自覚症状を呈して発見された場合、前立腺局所の癌が大きくなっていたり、 骨などに転移している可能性があり、前立腺癌が進行しているケースがあります。 しかし昨今ではPSA検査が普及してきたため、自覚症状がなくても比較的早期に前立腺癌が発見されるケースが増えてきました。

前立腺癌と男性ホルモンの関係とがんの進み方

男性ホルモンの95%は精巣で、残りの5%は副腎で作られます。前立腺癌は、男性ホルモンを栄養に増殖します。 前立腺癌の進行度によって、ステージⅠ~Ⅳに分類されます。 ステージⅠ,Ⅱは前立腺の中にとどまっており、限局癌と言われます。ステージⅢは前立腺の外にまで広がっており、 局所浸潤癌と言われます。ステージⅣは前立腺以外の他の臓器に広がっており、転移癌と言われ、リンパ節や骨、周辺臓器への転移がみられます。 前立腺癌の転移部位としては、骨が最も多く85.8%で、リンパ節38.4%、肺5.1%、肝臓1.6%、その他となっています。 より早期の段階(ステージ)で発見できれば、根治できる可能性が高くなります。

前立腺癌の主な検査

PSA検査、直腸診、経直腸的超音波検査があります。 PSAは、前立腺癌だけではなく、前立腺肥大でも値が増加するため、PSA検査における前立腺がんの発見率はPSA値が4.0~10.0ng/mLで25~30%、 10.0ng/mL以上なら50~80%と上昇します。PSAの基準値としては、一般的に4.0ng/mLが用いられています。50歳以上の男性、 40歳以上で親族に前立腺癌になった人がいる男性は、年に1回PSA検診を受けてください。 検診で、PSAが4以上であった場合、泌尿器科を受診します。泌尿器科では、再度PSAの値を検査し、PSAが4以下に戻れば経過観察となり、 PSAが再度4以上であれば、前立腺生検をして、前立腺の組織を採取して調べます。 前立腺生検は直腸から超音波を当てながら、前立腺の正確な位置を把握し、細い針で組織を採取し、顕微鏡で観察し悪性腫瘍か良性腫瘍かを判断します。 最も一般的な生検数は8~12カ所です。 CT検査はX線を用いて、体の横断面を撮影します。MRI検査は、磁気の力を利用して、体の縦断面を投影します。 骨シンチグラフィーは、放射線同位元素を体内に投与し、体内から放出される放射線から骨の画像を投影します。前面、 後面の全身像と必要に応じてスポット像、断層像を撮影できます。骨病変は黒っぽい影として描出されます。骨転移を検査するときに行われます。

前立腺癌の治療

局所治療には限局癌、局所浸潤癌に対して、根治を目的として行われる手術療法や放射線療法があります。また全身治療には局所浸潤癌、 転移癌に対して、病勢の進行を抑制する目的で行われる内分泌療法(ホルモン療法)や化学療法があります。 比較的進行が遅い癌のため、リスクが低く、すぐに治療が必要ないとされた前立腺癌では、PSAを定期的に検査して、 必要なタイミングで治療を開始するPSA監視療法も行われます。当院では、放射線療法以外のすべての治療を行っています。 手術療法は、前立腺及び精?を一塊として摘出します。早期癌など限局性前立腺癌に対する最も根治性の高い治療法のひとつです。 手術療法の適応は、期待余命が10年以上、臨床病期がT1、T2ならびにT3の一部です。

積極的な治療をせず、PSA値を監視する場合も

PSA監視療法では、積極的な治療はせず、定期的にPSAの値をチェックします。前立腺生検の結果、悪性度の低い癌で、画像上で癌が指摘できず、 PSAの値が10以下の患者さんに適応されます。PSA値の上昇がみられた場合は、再度前立腺生検を行って、積極的治療に移ります。 ホルモン療法は、基本的に癌をやっつける治療ではなく、癌の進行を抑える治療です。適切な薬剤を選択すれば、10年以上癌の症状が出ないようにすることが可能です。 手術に適応がない患者さんや、手術後に再発があった患者さんに適応となります。癌の進行や、抑制状況はPSAで判断します。 日本では、ホルモン療法の大半は、CAB療法で行われております。CAB療法は、精巣からのテストステロンの分泌を抑えるGnRH製剤と前立腺癌細胞への テストステロンの作用を抑える抗アンドロゲン剤を併用する治療法です。 進行性前立腺癌の治療として、現在の化学療法前に使用される治療薬は、奏効期間が短く、患者さんの背景によりますが、 一般的に化学療法前のCRPC治療ではAWS、抗アンドロゲン剤交替療法、二次ホルモン療法が施行されます。 しかし、それらの奏効期間はいずれも短く、全生存期間を延長した例はなく、化学療法前のCRPC治療では、忍容性が高く、より奏効期間の長い治療法が求められています。 化学療法は、ホルモン療法の効果がみられなくなってから行われます。抗がん剤により、がん細胞を直接攻撃し、死滅させます。 主にドセタキセルが用いられます。化学療法は、ホルモン療法と比較すると重篤な副作用が報告されており、できるだけホルモン療法の期間を延長させることが重要です。

前立腺癌は早期発見が大事、PSA検査を受けましょう!

前立腺癌は年々増加しています。高齢の方に多いがんで、比較的進行は遅い癌ですが、そうでないものもあります。 早期発見が大事なので、PSA検査を受けましょう。癌と診断されても、PSA監視だけで、直接治療しなくてよい場合もあります。 治療法には、手術のほか、放射線や内分泌療法もあります。