乳がん検診と治療について

講師:おおたかの森病院 外科 菊池 順子医師(日本外科学会専門医)

乳がん死亡数と乳がん検診受診率

日本人女性の12人に1人が乳がんにかかっています。年齢別にみるとピークは40代後半~50代前半で、 若い方、仕事や家庭で忙しい年代に多いのが特徴です。乳がんの死亡率は徐々に増えており、2014年には年間13,000人を超え、 30年前の3倍以上になりました。 英国や米国では、1995年ごろの乳がん検診受診率が上昇した時期から、徐々に死亡率が減少しており、 乳がん検診が有効であることが実証されています。 しかし日本での乳がん検診受診率は36.4%(2010年)で、諸外国(アメリカ80.4%、フランス75.4%、韓国74.1%)と比べて極めて低いのが現状です。



乳がん検診

乳がん検診では、触診、マンモグラフィー、超音波を組み合わせて行います。 視触診は乳房を観察し、手で乳房やリンパ節の状態を調べます。乳房にしこりやえぐれなどの変形やただれなどがないか、 乳頭に湿疹や分泌物(透明・黄色・白などはほぼ問題ないが、茶色や赤いものは問題がある場合も)がないかなどを観察します。 また、乳房に直接触ってしこりの状態などを調べます。首やわきの下のリンパ節が腫れていないかも診ます。 触診ではしこりの場所、大きさ、硬さ、しこりの境目がはっきりしているかどうか、よく動くかなどを調べます。 マンモグラフィーは乳房のX線写真のことで、乳房をできるだけ引き出して、圧迫板という薄い板で挟み、圧し広げて撮影します。 そのために多少の痛みを伴うこともありますが、圧し広げることで乳腺の重なりを少なくして、診断しやすい写真が撮影でき、かつ被曝量も減らすことができます。 マンモグラフィーでは腫瘤や、石灰化などが確認できます。良性腫瘤やがんの腫瘤はマンモグラフィー上やや白くみえる塊としてうつり、 境目がはっきりしている場合は良性腫瘍が多く、境目が不明瞭な場合は悪性腫瘍を疑います。石灰化とはカルシウムが沈着したものでマンモグラフィー上、 真っ白な砂粒のような影や、白い塊としてうつります。大きなもの、乳房全体にぱらぱらみえるものは良性であることが多く、 細かい石灰化が一カ所にたくさん集まっている場合は悪性の可能性があります。 超音波検査は乳房内の小さなしこりを見つけるのに有用です。特に40歳未満の女性の場合、マンモグラフィーではいわゆる高濃度乳腺 (乳腺の密度が濃い状態で、マンモグラフィーで全体的に白くうつる)のことが多く、しこりがあるかどうか判断しにくい場合があります。 超音波はゼリーを付けて、検査を行います。そして、しこりの形や境目部分の性状などで、多くの場合良性なのか悪性なのかを判断することも可能です。 しかし、マンモグラフィーと超音波のどちらかでしか発見できない乳がんもあるため、精密検査では両方の検査を行うことが通常です。 乳がんの画像検査には、マンモグラフィーや超音波のほかに、CTやMRI,PET/CTなどがあります。 マンモグラフィーや超音波などの画像検査で、良性か悪性かの区別が難しい病変やがんが疑われる場合に、乳房に細い針を刺して細胞を採取する細胞診や、 局所麻酔下でやや太い針を刺して行う針生検などが必要になります。

乳がんの治療

乳がんの治療には、外科手術、放射線療法、化学療法(抗がん剤)、ホルモン療法、分子量的治療薬(がんの遺伝子をターゲットにする薬)があります。
手術:昔は再発を防ぐために乳房を全摘し、リンパ節を多く郭清していましたが、最近では、乳房をできるだけ残して部分切除する乳房温存療法や、 リンパ節を数個取って調べるセンチネルリンパ節生検が主流になっています。
センチネルリンパ節生検:がん細胞がリンパ節に入ったときに、最初にたどりつくリンパ節がセンチネルリンパ節(見張りリンパ節)です。 センチネルリンパ節の生検を行うことで、腋窩リンパ節に転移のない方(全乳がん患者の60%強)への不必要な郭清(リンパ節の切除)を避けることができ、 上腕の知覚障害、わきの下や腕のむくみなどを減らすことができます。
放射線治療:以前は進行乳がんに対する治療が中心でしたが、部分切除後の残乳に照射することで、局所再発率を下げることができます。 他に、抗がん剤による化学療法や、ホルモン療法、分子標的治療薬(がんの遺伝子をターゲットにするので副作用が少ない薬)と組み合わせて治療を行っています。 乳がんの場合、女性ホルモンの影響を受けるか、がんの増殖遺伝子があるかどうかで5つのタイプに分けることができ、タイプごとに治療薬を選択します。

食生活と乳がん発症リスク

肥満は、閉経後の発症リスクを高めるのは確実です。アルコールは閉経前後を問わず乳がんの発症リスクを高めるのは確実で、 摂取量が増加するほどリスクが高くなります。大豆食品(イソフラボン)を摂取することで、乳がん発症リスクは低くなるとされています。 大豆食品に多く含まれるイソフラボンは、女性ホルモンのエストロゲンとよく似た構造をしており「植物エストロゲン」とも呼ばれ、 乳がんの治療薬タモキシフェンと似た構造をしているため、乳がんを予防すると期待されています。 また乳製品は、摂取することで発症リスクを下げる可能性がありますが、牛乳そのものとの関係は不明です。 脂肪を多く含む乳製品の摂取は、逆にリスクが高くなるという報告もあります。

生活習慣と乳がん発症リスク

閉経後の女性では、定期的な運動を行うことで、リスクが低くなることはほぼ確実です。少し汗ばむくらいの歩行、 軽いジョギングなどの有酸素運動を毎日10~20分程度心がけてください。 糖尿病がある人は、乳がん発症リスクは1.2~1.3倍になるとされます。また、喫煙は乳がん発症リスクが高くなることはほぼ確実で、 受動喫煙もリスクを高くする可能性があります。ストレスが、乳がんの発症リスクを高めるかは、いまだ結論は出ていません。 ホルモン補充療法でエストロゲンとプロゲステロンを併用する方法では、乳がん発症リスクがわずかながら高くなると言われています。 経口避妊薬も長期間服用すると、乳がん発症リスクはわずかながら高くなる可能性があります。

どのくらいの大きさで分かるの?

乳がんが見つかった時の平均的なサイズは、定期的なマンモグラフィーを受けている人で0.5㎝、定期的に自己触診をしている人で1.1㎝、 時々自己触診をする人は2.2㎝、たまたま見つかった人では3.6㎝と言われています。
≪自己視・触診のやり方≫
①上半身裸になり、大きな鏡の前でチェック:乳房の大きさが以前と変わっていないか? 張りが強くなっていないか?皮膚の色は?ひきつれ・くぼみ・ふくらみはないか? 乳頭の陥没、歪み、ただれはないか?両手を同時に上げ下げすることで分かりやすくなります。
②お風呂で洗いながらチェック:反対の手に石鹸を付けて、撫でるように洗ってみてください。 しこりはないか?乳頭からの異常分泌はないか?体位によって分かりやすくなるしこりもあるので、 入浴時以外に寝た状態でも、時々行うとなお良いです。閉経前の方は、月経終了後1週間くらいの間に行うとわかりやすいです。 閉経後の方は毎月、日にちを決めて行うようにしましょう。

柏市の乳がん検診(5月~3月)

30~39歳の女性は、超音波(集団)または視触診(個人)を選択できます。40歳以上の女性ではマンモグラフィーで、希望者は視触診(個人)を受けられます。 当院は乳がん検診の定点医療機関です。平成27年度は1,298人の方がマンモグラフィー検診を受けられています。 乳がん検診で、C(カテゴリー)-1:異常なし、C-2:良性の所見、C-3:良性と思われるが悪性を否定できず、 C-4:悪性が疑われる、C-5:悪性で、C-3以上は精密検査の通知が来ます。平成27年度の柏市マンモグラフィー検診受診者は19,956人で、 そのうち要精査は4.4%でした。柏市エコー検診の受診者は4,469人で、要精査は2.4%でした。 乳がんは、病期Ⅰ(2㎝以下、リンパ節転移なし)では、10年生存率は93%ありますが、Ⅲ期では60%以下に下がります。 乳がんになる人は増えていますが、早期に発見すれば乳房を失うことも、命を落とすことも避けられます。 自分の乳房に関心を持ち、自己触診に合わせてマンモグラフィーやエコーの検診を定期的に受けることで、自分の身を守りましょう。