大動脈瘤の予防と治療について

講師:おおたかの森病院 心臓血管外科部長 市原 哲也 医師

■放っておいちゃいけません~大動脈解離・大動脈瘤の予防と治療について~

大動脈瘤とは?

大動脈疾患(大動脈瘤破裂および大動脈解離)は増加しており、年間死亡者数は約14,000人に上り、脳卒中の約13,000人、 心筋梗塞などの心臓病の約18,000人と比べても、かなり多いと言えます。 大動脈は、心臓から送り出された血液を全身に届ける樹の幹のような動脈で、胸の上部前側からぐるりと後ろ側に回り、 背骨の横に沿って流れており、胸の辺りで3㎝程、お腹まで行くと親指ぐらいの太さがあります。 大動脈瘤は、大動脈が動脈硬化によって硬くなって、その血管の一部分が風船のように膨らんだ状態です。 徐々に瘤は大きくなり、血管の正常の太さの2倍以上に瘤が膨らむと、破れる危険が大きくなります。 それが、破れて出血する(大動脈瘤破裂)と死に至るので、至急、人工血管に置き換える手術をしなければ助かりません。 大動脈瘤があっても、ほとんどの場合は無症状で経過し、ある日突然、胸痛、背部痛、腰痛、腹部痛、意識消失等の症状で、 大動脈瘤破裂を起こしていると診断されることが多いです。さらに、大動脈瘤破裂だけではなく、大動脈の内側に亀裂が入り、 その裂け目から血流が血管壁を裂いて3層になっている血管壁内に流れ込む急性大動脈解離など、とても危険な大動脈疾患を起こしやすくなります。 大動脈瘤が破裂する前に、見つけて治療しましょう。



なぜ、大動脈瘤ができるのか?

大動脈瘤ができる原因のほとんどは、動脈硬化の進行です。動脈硬化は、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病や、 血管年齢の上昇(加齢)、肥満、喫煙などが原因となって、血管が硬くなる状態です。正常の血管は、“イカ”をリング状に切ったときのように柔軟な状態ですが、 動脈硬化が進むと徐々に血管が硬くなっていき、硬い陶器のように柔軟性を失ってしまい、血管の弱い部分が膨らんで瘤となっていきます。

どのように発見されるのか?

大動脈瘤が見つかるのは、どんな場合が多いでしょうか。

  1. 偶然見つかる:人間ドックや、他の病気などでCT検査をしたときに見つかることが一番多いです。時には、お腹などが膨らんでいて、検査してみて見つかることもあります。
  2. 症状が出てから見つかる:ほとんどは破裂しかかっている状態で、大動脈瘤が小さく破れて少しずつ出血して、胸痛等の症状が出て見つかることもあり、 緊急手術が間に合えば、運が良いと言えます。
  3. 突然死の原因の一つであり、冷たくなって見つかる場合も…。大動脈瘤がひとたび破裂すると、死亡率は80%~90%のとなります。

大動脈瘤が破裂してからでは間に合わない場合が多いので、破裂する前に早期発見するためには、どこか異常がないか、CT検査を受けてみてください。

手術しても助からないという先入観!?

大動脈瘤の破裂で手術した方のほとんどは、高血圧などの動脈硬化性疾患で内科や循環器科に通院していたのに、大動脈瘤の有無は調べていませんでした。 つまり、大動脈瘤を疑って、検査してみなかったのです。 さらに、大動脈瘤が破裂して緊急手術となった方の23%、4人に1人は病院や医院にかかっていて、大動脈瘤があると言われていたのに 破裂(または大動脈解離)するまで放っておいたのです。 このような悲劇になった理由の1つとして、大動脈瘤手術の成績が悪いため、『手術すると死ぬから手術はしない方が良い』」という、 かかっている先生に先入観がある場合があります。中には(医師によって、手術の基準が曖昧で)、大動脈瘤は簡単には破れない、 症状が出なければ大丈夫と思っている先生もいます。または腎不全、呼吸不全などの他の病気があり、手術は無理だからと考慮されなかったというケースもあります。

どこに手術を任せたら良いかが分からない!?

医師が『手術が必要だ』と考えたとしても、各施設の手術成績が公表されていないため、適切な施設が見つからず、紹介できないという場合があります。 またはかかりつけの先生が外科医に相談しても、年齢や合併症、全身状態などを理由に手術を断られる場合もあります。

人工血管置換術とステントグラフト治療

大動脈瘤が見つかった場合、まずCT検査で断層写真を撮って、瘤が小さい場合は血圧を下げる薬を飲んで、生活指導をし、定期的な検査(特にCT検査)を行い 大動脈瘤の経過を見守る内科的な治療となります。もし動脈瘤が正常径の血管の2倍以上、胸部で6㎝、腹部で5㎝以上になると破裂の可能性が高くなるため、 治療が必要となります。治療法としては、手術をして大動脈瘤ができている部分を切除し、人工の血管に置き換える人工血管置換術があります。 また最近出てきたステントグラフト治療は、足の付け根の血管から、直径7~10㎜ほどのカテーテルを使い、折りたたんだステンドクラフトを動脈瘤のできている部分に 持って行って、開いて留置する方法です。血管内で治療できるため、開腹や開胸の必要がなく体への負担が少なく、高齢の方や複数回の手術経験がある方にも治療できます。 このステントグラフト治療ができるのは、大動脈瘤ができている部分以外の血管がきれいな場合や、瘤の部分が治療しやすいところにある場合です。 ただし、ステントの間から漏れた血液で瘤がさらに大きくなり、追加治療が必要になる方も10人~20人に1人ぐらいあります。

大動脈解離とは?

大動脈解離は、血管壁は3層になっていますが1部が裂けて、その壁内に血液が流れ込み、血管壁内を裂きながら急速に進んでしまう病気です。 強烈な痛みを伴う場合が多いので、すぐに病院に行きましょう。解離がどこにできているか、上行大動脈から弓部大動脈にあるのがA型であり、緊急手術が必要です。 上行大動脈にないのがB型で、降圧剤などの保存的な治療で経過を見ます。

早期発見・早期治療のために

心臓血管外科医の役割は、急性大動脈解離や大動脈瘤の破裂などの急性大動脈疾患に対する迅速な対応・治療があります。 そして、すでにある大動脈瘤を早期発見、早期治療することが求められます。そのために、大動脈瘤の治療方針の相談窓口になることだと思っています。 いつでも、電話やメール(otaka.cvs@gmail.com)で気軽にご相談ください。