手術で治る認知症 ~特発性正常圧水頭症~

講師:おおたかの森病院 脳神経外科部長 内田 耕一 医師

認知症=アルツハイマー病では、ありません。

特発性正常圧水頭症という病気は、あまり知られていませんが、最近になって診断基準がはっきりしてきたこともあり、 患者数も増えている認知症の原因疾患です。

手術で治るタイプの認知症なので、ぜひ見逃してほしくないという思いから、今回の講座に選びました。 実は、認知症と一口に言っても、その原因となる疾患は様々です。



【認知症の原因疾患】

  1. 中枢神経変性疾患
    脳の特定の神経細胞群が 徐々に障害を受けてしまう病気
    ①アルツハイマー病 ②前頭側頭葉変性症 ③レビー小体型認知症 ④パーキンソン病

  2. 脳血管障害(脳卒中)
    ①脳梗塞 ②脳血流不全 ③脳出血 ④慢性硬膜下血腫

  3. その他の中枢神経系疾患
    ①脳腫瘍 ②正常圧水頭症 ③頭部外傷 ④髄膜脳炎 ⑤無酸素脳症

  4. 内分泌疾患(ホルモンの病気)
    ①甲状腺機能低下 ②下垂体機能低下 ③クッシング症候群

  5. 中毒・代謝・欠乏性疾患
    ①慢性アルコール中毒 ②薬物中毒 ③金属中毒 ④ビタミン欠乏

  6. 臓器不全
    ①慢性心不全 ②慢性呼吸不全 ③肝不全 ④腎不全

  7. その他

2.④慢性硬膜下血腫と3.②正常圧水頭症による認知症は脳外科手術で治せる可能性があります。 認知症=アルツハイマー病ではないので諦めず、きちんと検査を受けることが大切です。

認知症の診療実態

このデータで正常圧水頭症とその他を合わせると、全体の約1割です。 この約1割が治るタイプの認知症かもしれないのです。
実は、こういう方が増えています・・・

  • 3年前、アルツハイマー病という診断を受け、要介護度3となっていた。
     ↓
  • ある日、家の中で転倒して救急病院へ搬送され、検査をしたら水頭症だった。
     ↓
  • 水頭症の手術を受け、今は症状なく自立している。

よく転倒される認知症高齢者は、水頭症の可能性があります。

特発性正常圧水頭症(iNPH) とは?

それでは、特発性正常圧水頭症とはどんな病気なのでしょうか? 一言でいうと、脳脊髄液の循環障害により吸収しきれない脳脊髄液が脳室の中に溜まってしまう病気です。
その特徴は下記の通りです。

  1. 明らかな原因疾患が不明
  2. 歩行障害を主体として認知症、尿失禁をきたす
  3. 髄液循環障害が原因で脳室拡大を伴う病態
  4. 高齢者に多くみられ、症状はゆっくり進行する
  5. 適切なシャント手術によって症状の改善が期待できる

「特発性正常圧水頭症ガイドライン2011より」

特発性正常圧水頭症の3つの徴候

特発性正常圧水頭症は、年齢的には60歳以上で、原因は特定できないにも関わらず、脳室の拡大が認められ、 歩行障害・認知症・尿失禁の症状が進行していきます。

第1段階)歩行障害 94~100%
・小刻み歩行 ・すり足歩行 ・開脚(がに股)歩行 ・第一歩が出ない ・不安定で転倒することがある(特にUターンができない)
※症状が進むと寝たきりになってしまう可能性があるので要注意です。
第2段階)認知症 78~96%
・物忘れ ・自発性の低下(日課、趣味をしなくなったなど)・呼びかけに対して反応が遅く、表情が乏しい
※アルツハイマー病と似ている
第3段階)尿失禁 76~83%
・頻尿(トイレが近い)・尿意切迫(我慢が出来ない)・尿失禁 ※歩行障害があってトイレに間に合わない

老化現象で仕方ない…と思われがちですが、発症から中期の頃は、症状に動揺があり、数日から数週の単位で 増悪・改善を繰り返し、3カ月~6カ月程度で段階的に悪化していきます。
まずは、疑うことが大切です。きちんと検査を受けましょう!

診断と髄液タップテスト

特発性正常圧水頭症の診断は、CTやMRIによる画像診断で可能です。 ガイドライン上は、前記の徴候と画像診断で治療に入ることは可能ですが、 手術をしたら効果があるかどうかを判定できるテスト「髄液タップテスト」を術前に行っています。
【髄液タップテスト】
腰椎穿刺により、約30mlの髄液を取ることで症状の改善が得られたら、髄液シャント術が有効と判断できるテスト

特発性正常圧水頭症の治療

特発性正常圧水頭症の治療は、髄液シャント術(短絡術)が有効です。 これは、脳室に溜まった髄液を人工的に作ったバイパスから他の臓器に流すことで、脳室の拡大を縮小させることができる手術です。 髄液シャント術には、下記のような種類があり、患者さんの状態によって決めていきます。

この手術は、年間15,000件の症例があり、そのうちの約4割が、特発性正常圧水頭症によるものです。 (残りは、続発性水頭症が約5割、小児水頭症が約1割となっています)
手術時間は、約1時間で入院期間は約10日です。

髄液シャント術による3徴候の改善率は、
●歩行障害 9割前後 ●認知症状と尿失禁 7割前後
となっています。