医療コラム

大動脈コラム Vol.1「破裂を未然に防ぎましょう」

大動脈瘤があると言われている方、知人・家族の大動脈瘤のことが心配な方へ

心臓血管外科 部長 市原 哲也

当院で心臓血管外科が開設されて5年少々、遡って私が責任をもって治療にあたるようになって、およそ25年が経過いたしました。 その間、感ずることがいくつかございますが、そのなかでも最近特に強く感じることについて述べたいと存じます。 当初から大動脈瘤手術件数が多く、特に、急性大動脈解離スタンフォードA型(心臓から出たばかりの上行大動脈という血管に 解離が及んでいるもの)の手術は、 最近5年間で200例となり、直近の2年間では、毎年30例を越えています。 また、真性瘤(解離ではない)の破裂に対する手術も少なくありません。 つまり、急性解離、真性瘤の破裂という「急性大動脈疾患」と呼ばれる疾患群に対する手術が依然として多いのです。

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これらの疾患には見つかり次第、至急行う緊急手術しか救命の方法はございませんが、事前に予定した手術より、明らかに救命率は低くなります。 その理由は、病院に到着時に血圧が50、60しかなく、いわゆる“ショック状態”で治療が間に合わない場合が多いからです。 これに対して、予定が立てられる手術(定例手術と申しております)ですと、危険率(死亡率)は5%で、明らかに緊急手術よりは安全な手術であると言えるでしょう。 特記すべきは、緊急手術を受けられた方の大半が高血圧をお持ちで、しかも以前からずっと、「大動脈瘤がある」と、医師から言われているという事実です。 中には、「今は手術の必要がない」「手術なんかしたら絶対死ぬ」「破れたら手術すればいい」などと言われ、そのままにしていた方が多いのです。

こんな例がございました。
60代の男性、大動脈瘤のため、半年毎にCTをお受けになっていながら、その破裂が原因で、ショック状態で運ばれ、緊急手術の甲斐がありませんでした。 この方は、背中側の大動脈(下行大動脈と言います)が、7cmに膨らんでいながら、 かかりつけの医師に「破れたら手術すればいい、まだ早い、今やると死ぬぞ」と言われていたのです(家族談)。

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このように、大動脈瘤のため医師にかかっていながら、その破裂で緊急手術になる、という方は例を挙げれば切りがありません。 こういう例は、瘤破裂で緊急手術となった方々の中で、なんと25%、つまり4人に1人という結果が出ています。 これまで、大動脈瘤を指摘されていない方は、ある程度仕方がないと言えましょうが、動脈瘤について診てもらっていながら、 その破裂で緊急手術となり、結果 命を救えないというのは、心臓血管外科医の私共といたしましても、悔しくてなりません。 大動脈瘤に関しては、指導する側の認識が正しくない場合が依然として多いのですが、理由は、いくつか挙げられます。

その1.大動脈瘤は手術成績が悪い、やると死ぬから、しない方が良い、と思われている。

これは、私共 心臓血管外科医の責任であるのですが、成績には非常に大きな“ばらつき”があります。悪い施設は非常に悪く、 良い施設は非常に良いのです。これは、現在の日本の心臓血管外科施設が多過ぎるため、患者があちこちに散らばり過ぎであることが原因なのです。 動脈瘤手術件数が年間3例、あるいは5例などという施設から、年間80例、100例、200例を超えるという施設まで存在し、当然、成績も反映され、 件数の多い施設は概ね好成績なのです。

その2.大動脈瘤は簡単には破れない、と思われている。

いわゆる、手術適応が曖昧なのです。これも、はっきりと適応についての議論がなされない医療者側の責任です。 そのため、7cmの瘤も「まだ大丈夫」などということになってしまうのです。

その3.大動脈瘤は破れてから手術すれば良い、と思われている。

破れる前に手術すれば助かる方も、破れてからでは助からないことが多いからです。

その4.大動脈瘤による症状は、余程大きくならないと現れない。

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胸の大動脈瘤では、胸痛、背部痛、声嗄れ等、腹の大動脈瘤では、腰痛等の症状が現れるのは、 かなり大きくなって破裂に近い時期、またはまさに破裂した瞬間です。 では、なぜ見つかるかと申しますと、別の病気で来院された際の検査で“偶然”見つかることが多いのです。 これは、とても運のいいことなのです。 たとえば、咳のため、レントゲンを撮ったら変な影があると言われ、調べてみると胸の大動脈瘤だった。 便秘がちで、おなかの超音波検査をしたら腹部の大動脈瘤が見つかった、等々。 大動脈瘤の見つかり方は、このような“別件逮捕”が圧倒的に多いのです。 ですから症状は、まず出ない、出たら危険信号と考えるべきなのです。

このように、大動脈瘤に関しては、一様に認識が甘いと言わざるを得ません。 これが長年、心臓血管外科医として命に向き合ってきた私の本心です。現在行われている大半の治療法が悪いとか間違っているとは申しません。 しかし、ご自身や大切なご家族が本当に正しい治療を受けているかどうか、今一度お考えいただき、少しでも不安があれば、ご相談いただければと切に思います。 「自分の家族だったらこうする」と思うことを専門的な立場でお話しいたします。

市原先生

心臓血管外科 部長 市原 哲也


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